第1章 学習意欲を研究するということ ②

動機づけ研究における特性と状態

今回はP12~P17で言及される、動機づけをめぐる議論によく出てくる「特性」と「状態」について触れられている部分を要約してから、考察する。

(要約)

ここでは、学習者の意欲を理解・高めるために、特性(Trait)と状態(State)の区別が重要だと説かれている。特性とは、長期的・安定的な傾向で、多くの状況で一貫して現れる性質でである。例えば、好奇心が高い人は多くの場面で興味を示すといった性質である。

それに対して状態は、その時々の状況に応じて現れる一時的な傾向であると説明されている。たとえば、普段は好奇心が低い人でも、ある特定のテーマでは強い興味を持つことがあるといった場合を指す。

ここでは、学習意欲を設計する際には、まず対象者の意欲特性を把握し、それに合った方略を準備することが望ましいとされる。しかし、同じ人でも状況によって意欲は大きく変わるため、過去の一部の行動から全体像を決めつけることは避けるべきと述べられている。

語学の授業で興味を示さなかった生徒でも、授業内容や方法が合っていなかっただけで、実は高い好奇心を持っている可能性があるといった例が挙げられる。

このように、特性と状態の区別を理解し応用することで、学習者の意欲をより正確に把握し、効果的な動機づけ設計につなげられると筆者は述べている。

(考察)

上記にまとめたことに加えて、P17には学習者の特定状況での意欲状態を知ることが、最も近道であると述べられている。日本語学習者の場合は、以前日本語を勉強した際の意欲状態がどうであったかということになる。もしくは、日本語以外の外国語の勉強に対する意欲状態を知ることも考えられる。学習意欲をデザインするためには、学習対象となるものにどのような意欲を持っているかを知ることが大切だということは当然だと理解できる。ここでいろいろな状況が想定される。

まず、以前、日本語を勉強していた時は意欲的に取り組んでいたとしても、学習が進むにつれて難しくなり、意欲が減退していくことがあるだろう。次に、授業中誰よりも意欲的に取り組んでいるのに、それほど意欲的ではないかもしれない他の学習者よりもなかなか上達できない場合である。逆に言うと、学習意欲にムラがあっても上達する学習者もいる。また、同じ日本語学習でも自分がやりたいと思っている学習内容には集中するが、そうでないと判断するととたんに集中力が落ちる学習者もいる。

このような様々に複雑な状況がクラスの中には絡み合い、常に変化しながら存在している。そのため、授業中の様子を特定の場面のみで切り取って観察するだけでは学習者の意欲があるとかないとかジャッジすることはできないだろう。教師にできることは一人一人の意欲が高められるような仕掛けを随所に工夫した授業を続けることと、同時にクラス全体をまるごと1つのパーソナリティーのように、メンバーそれぞれが互いに切磋琢磨できるように育てる事だと思う。

クラスの雰囲気は日ごろの授業、グループワーク、個人面談などを通して、学習者と一緒に教師が作っていけるものであり、それによって学習者の特性や状態をカバーしていくことが大切なのではないか。

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