今回はP145~P150で述べられている自信がどのようにコントロールされているのかについてのこれまでの心理学における研究を概観し、教える立場側が踏まえておきたいことをまとめる。
要約
冒頭で「統制の所在」について、定義される。統制の所在とは、自身の行動の結果や人生における出来事の原因を、自分自身の内面(努力や能力)に求めるか、外部の要因(運、他者、状況)に求めるかという個人の信念や認識の特性を指している。前者を内的統制、後者を外的統制と呼ぶ。
例えば、テストの成績が同じく低かった二人の学生がいた場合、内的統制の所在が強い学生は、自分の努力不足だと内省するのに対し、外的統制の所在が強い学生は、教師教え方が悪かったとか、テストが不公平だったなどのように、外部に原因を求める。そしてこのような信念の違いは、その後の学習意欲や行動に大きく影響を与えると述べられている。これは、民族的、文化的相違によっても影響を受けるとのことだ。
人間の行動は「客観的な事実」そのものよりも、「その人が結果の原因をどこに帰属するか(統制の所在)」という主観的な信念に強く左右されると述べられている。このことから、学習者に「成功は自分の努力やスキルでコントロールできる」という信念(内的統制の所在)を持たせることが重要であると指摘されている。
ただ、内面者と外面者の関係性は課題の性質によっては単純に二分して断定できない事がこれまでの実験によって示されていることが述べられる。実験であるタスク再生課題が実施された例が挙げられている。課題の成功を高い特性レベルの内面者はその原因を内的要因に帰属させた。それに対し、低い特性レベルの内面者、または高い特性レベルの外面者は、成功を外的要因に帰属させ、失敗を内的要因に帰属させたと述べられている。さらに、高い内面者は初期段階によい成果を収めたがそれは自分で成果をコントロールできるという期待があり、不安感が少なかったからだということだ。ところが彼らが否定的なフィードバックを受けた時には成果の質が下がったと述べられ、その原因は自信の低下あるいは過度の認知的負荷によるものだとされている。
本当に効果的な学習環境を設計するためには、タスクの挑戦レベルと提供されるフィードバックの種類との関係において、教師は自己効力感が学習者にどう影響するのかを見ていく必要があるということだろう。そして、ある特定の状況下において、学習者からデータを収集することが必要であり、研究からの一般化に頼らない事が求められると述べられている。
(考察)
学習者が内面者であるか、外面者であるかについて、教師は日ごろの授業でのやり取りや課題、テストなどを通して観察、分析をする必要があるだろう。ただ一人の学習者でも課題の性質や教師側からのフィードバックによって、成果が左右されるということなので、教師は課題をデザインする際に学習者に合わせた内容調整や、フィードバックの方法を考える事が求められるということが理解できた。クラスの学習者一人一人が異なった統制の所在を持っているため、それをどうとらえてインストラクショナルデザインをするかが必要だが、民族的、文化的相違にも影響を受けるいうことが興味深かった。自分が日本人で日本で教育を受けてきたスキーマがあるため、ついその枠組みで学習者の統制の所在についても考えてしまいがちだったことに気づいた。
結局のところ、研究での実験結果はあくまでも前提知識として頭に入れておいた上で、最後に述べられていたように、学習者にとってその課題の挑戦度がどのくらいだったのかに留意しながら、教師は全体にどんなフィードバックをするのか、必要に応じて個別にどんなフィードバックをするのかを意図的にできるようになることが大切なのだろう。それが学習者一人一人の自己効力感に繋がっていくのだと自覚することが必要なのだと思った。
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