第1章 学習意欲を研究するということ①

本書で採用する立場

第1章冒頭の「本題に入る前に」では、テーマについての読者の問題意識が問われる。その後P2~P3の「意欲とは何か」で、「意欲」というものについての定義が説明され、この本で扱われる学問的な立場について言及される。今回はP1~P7までを要約してから、考察したい。

(要約)

冒頭部分は、「学習意欲についてだれが責任を持つのか?」という問いから始まっている。多くの教師が「やる気がないのは学習者の問題」と考えがちだが、著者はそこに疑問を投げかけている。そして、教育の現場と学術的な研究の間にあるギャップを橋渡しする方法として、動機付け理論に基づくインストラクショナルデザインが必要だと述べている。その一つが本書の中核であるARCSモデルである。

意欲を説明する理論やアプローチは、生理学的、行動主義的、認知的、情意的アプローチに分類されるが、それぞれが異なる前提や方法論に基づくため、統合的な理論構築が困難であるとされている。その要因の一つとして、行動心理学と認知心理学のように、基本的な見解が対立していることが挙げられる。

著者がとる立場は文脈依存的で相対的な理論を統合的に活用する「透視主義」である。透視主義の立場からARCSモデルを複数の理論を統合するマクロモデルとしてとらえる。P6に提示されている図1.2「ケラーの動機づけとパフォーマンスのマクロモデル」では、環境要因、学習者の特性、教材の設計などがどのように意欲やパフォーマンスに影響を与えるかが示されている。さらに学習の成果やそこから得られた満足感が、将来の期待感や価値認識に影響を及ぼし、動機付けに循環的に働く構造が図によって視覚化されている。

(考察)

気になったのは透視主義という言葉だった。調べると、「物事を見るときには必ず”視点”がある」という考え方だそうだ。つまり、世界や事実の見え方は、見る人の立場や状況によって異なるので、唯一の絶対正しい見方は存在しないということである。透視主義(perspectivism)の代表的な提唱者は哲学者のニーチェで、真実や知識は絶対的なものではなく、あくまで視点に依存するという哲学的立場を展開したそうだ。

この本でこれから紹介される学習意欲にフォーカスしたインストラクショナルデザインの方法は1つの理論やアプローチだけでなく複数の視点からとらえたものということだ。たとえば教師の視点、学習者の視点、学習環境などを統合して授業を設計するということだろう。

授業の内容や進め方を考えるとき、どうすれば学習者の興味を惹きつけ、やる気を高め、それを維持させながら学習効果を生み出せるかということは、教師なら常々考えていることだろう。難しいのは、人間は日々刻々と変化していくこと、つまり同じ学習者でもモチベーションは一定ではなく、時間の経過や課題の性質などによって変動するということではないか。そしてクラスにはレベル差のある多様な学習ビリーフを持っている学習者がいること、教師側は多くの場合、すでに決められた教材を決められた時間の中で扱いこなしていかなければいけないことである。本書を学び、ARCSモデルが授業のあらゆる局面で活用し実践できるように読み進めていきたい。

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