学習意欲や成績にも影響を及ぼす「指し手・コマ理論」
今回は『学習意欲をデザインする』第6章の「自信を構築する作戦」P150~P152で述べられている「指し手・コマ理論」を学びたい。そして、日ごろの授業をデザインするときにどう生かしていけるのか考えたいと思う。
指し手・コマ理論とは?
この理論はアメリカの心理学者、リチャード・デシャームとジュディス・ロッドンによって1960年代後半に提唱されたそうだ。一言で言えば、人が自分の人生を「主体的にコントロールしている」と感じる場合が「指し手」で、「外部の力にコントロールされている」と感じる場合が「コマ」である。この認知のパターンが、動機付けや行動、学業の成績に大きな影響を与えることがこれまでの研究で明らかにされているということだ。では、本書ではどのように述べられているのだろうか。
「統制」の所在との関係
「指し手・コマ」の概念は「統制」の所在と時々比較されると述べられている。指し手・コマ概念は、ある人が自分の人生や人生で起きる出来事を自分の力で制御できているかどうかという感覚に焦点を当てているそうだ。それに対して、統制の所在というのは、ある人が自分の行動によってもたらされる結果に対して、自分が制御できていると信じる度合いとして定義されているそうだ。つまり、「指し手・コマ」の概念は、人生全般に対する全体的な姿勢や感覚に焦点を当てており、「統制」の所在の概念は、ある特定の行動とその結果に焦点を当てているということだろう。本書では、P151に、「指し手・コマ」の指向性を測定するための主題感覚テスト(TAT)と、「統制」の所在を測定するためのロッターのI-E尺度が紹介されている。
考察 ~学習者にやる気を持って取り組んでもらうために~
日本語学校の留学生の現実
日本語学校のクラスの学生たちを見ていると、やる気や学習への取り組みの個人差はとても大きい。たとえば、高校を卒業してすぐ、日本へ留学した学生たちは、日本での生活が始まると、勉強だけに専念すればいいわけではない。日々の生活や、卒業後の進学や就職のために、アルバイトをしなければならない場合がほとんどだ。外国語を一から勉強するだけでも大変なのに、それに加えて異国で勉強とアルバイトを両立しなければならない現実に直面した時、学生の心の中にあった「指し手」の感覚は次第に「コマ」になっていきがちなのではないだろうか。
同じクラスの中で、20代後半だったり、30代以上だったりする学生もいる。そういう学生を見ていると、少し違う気がする。国でのこれまでの経験を踏まえて、留学や日本語の勉強の目的意識が明確で、ぶれないやる気を持っていることが多い。留学生活の中で、日本語の勉強に対して「指し手」であり続けようと努力しているのではないか。
この理論をどのように活かせるか
今自分が担当しているクラスの学生が、ほぼ同じ国籍で、高校を卒業してすぐ日本に来た学生が多かったことから、こんな風に感じたのかもしれない。「指し手・コマ」の理論と「統制」の所在のパートを読んで、これからどのように学生と向き合っていけるのか考えた。
前者の理論を念頭に、学生に対して、将来のみなさんの人生にとってこの授業はこういう意味がある、だから主体的に取り組む価値があるというメッセージを意識して伝えられるようにしたいと思った。(オーバーかもしれないが)それが伝わって、学習者に自分が「指し手」なんだという意識を育んでいってほしい。また、後者の理論(統制)を踏まえると、日々の課題、テストの成績などの成果が、自分の努力によって生まれると感じられることが必要だ。
日本語学習の「指し手」になれるような環境づくりのために何ができるだろうか、引き続き検討していきたい。
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