Reading Fluency, Reading rate, and Comprehension abiilty(読みの流暢性、速さと理解能力)
第17章(P403~P418)を要約し、日本語教育の読解指導にどのように取り入れていけるか、考えてみる。
第17章 序論
第17章では、読解フルエンシー、読解速度、読解理解の関係が整理されている。1970~80年代には、読解の流暢さの重要性を指摘する研究は少数派であったが、Nation らは40年以上にわたりその必要性を主張してきた。現在では、読解フルエンシーは読解理解に不可欠な要素として広く認識されており、初級段階の語認識の自動化から、上級段階の文章レベルで理解を伴って流暢に読む力までを含む概念とされている。第一言語研究では、語の流暢な読み、音読速度、読書量(多読)が、幼児期から複数の年齢段階にわたり読解理解と強く関連することが示されている。2000年以降はNRP報告書を契機に、フルエンシー研究や教師向け実践書も増加した。一方、第二言語研究では、語や音読のフルエンシー研究は比較的少なく、黙読速度、反復読解、多読といった指導法に焦点が当てられてきた。本章は、こうしたL1とL2研究の違いを踏まえつつ、読解理解におけるフルエンシーの位置づけを再検討することを目的としている。
読解フルエンシーの要点
読解フルエンシーとは、テキストを速く、滑らかに、無理なく、自動的に読み、読みの仕組みにほとんど意識を向けずに意味理解に集中できる力である。流暢な読者は、音読ではためらいなく安定した速度で読み、黙読では目的に応じて適当な速さで読み進めることができ、長時間の読書でも疲れにくいとされている。フルエンシーは一朝一夕に身につくものではなく、長期的・段階的な学習の結果として形成され、読解理解の向上をもたらす。読解理解は処理容量に制限のある認知活動であるため、語認識が自動化されていないと意味理解に十分な注意を向けられない。こうした考え方から、読解フルエンシーは「自動化・正確さ・速度・韻律(イントネーションや句切り)」という4つの要素から成ると整理される。ただし、第二言語学習者の場合、特に韻律の評価は難しく、個別評価が必要になることも多い。それでも、これらの要素はいずれも読解フルエンシーを捉えるうえで欠かせない視点である。
フルエンシー発達の多様な場面
読解フルエンシーの発達は、学習者の年齢、読解熟達度、そしてL1かL2かという言語環境によって大きく異なる。子どもと青年・成人では、フルエンシー練習に取り組む能力や前提となる認知的資源が異なり、同一の指導方法がそのまま適用できるわけではない。
年少の学習者は、語認識の自動化に多くの注意資源を割く必要がある。一方、年長の学習者や熟達した読者は、すでに語認識の自動化が進んでおり、教科内容や教材を用いた流暢な読解活動により取り組みやすい。これに対し、読解が困難な学習者は、フルエンシーを伴う読書経験が乏しく、自動化・正確さ・速さなどの下位技能のいずれかが欠けていることが多い。
また、L1読解とL2読解ではフルエンシー発達の様相が異なる。L2では、自動化・正確さ・速度・プロソディといったフルエンシー要件を満たすことがより困難であり、ESLとEFL、さらに学術目的でL2を必要とする学習者と単位取得目的の学習者の間でも大きな差がある。
L2フルエンシー研究はまだ十分ではなく、これまでの研究は多読による語彙量や読書速度の向上に焦点が当たりがちであった。さらに、L2では発音や明瞭性が重視されるため、音読パフォーマンスと読解フルエンシーの関係がL1とは異なる形で現れる可能性がある。この点については、理論ではなく、学習者の特性や測定方法を考慮した実証的研究が求められている。
(NRPとフルエンシー研究の展開)
読解フルエンシーは、熟達した読解を支える中核的要素であり、フルエンシーが低い学習者は読解理解に困難を抱えやすい。フルエンシーは主に読書練習を通して発達する能力であるという点が、研究・指導の両面で共有されている。
この考え方を決定的に後押ししたのが、2000年に公表されたナショナル・リーディング・パネル(NRP)報告書である。NRPは、読解理解の向上に強い実験的エビデンスをもつ5つの研究領域を特定し、その1つとして読解フルエンシーを位置づけた。特に、**指導つきオーラル・リピーテッド・リーディング(音読の反復)**が、正確さ・フルエンシー・読解理解の向上に有効であることが示された。
NRPのメタ分析では、ほとんどすべての研究において、指導つき反復音読群が統制群を有意に上回り、効果量は d = 0.41 と中程度であった。この効果は、平均的な読者と読解困難を抱える学習者の間でほぼ同程度であり、幅広い学年層にわたって確認された。
これらの結果は、アメリカにおける読解研究と指導実践に大きな影響を与え、フルエンシーが研究・教育の周辺的テーマから中心的な研究課題・指導目標へと位置づけ直される契機となった。その後、英語L1の文脈では、NRP以降に新たな3つのフルエンシー研究アプローチが登場し、研究の幅がさらに広がっていくことになる。
フルエンシー概念の拡張と読解理解との関係
ここでは、読解におけるフルエンシー(流暢さ)が、単なる「速く読む力」ではなく、理解と深く結びついた中核的要素であることが示されている。フルエンシーは読解の前提であると同時に、理解の結果としても発達する双方向的な関係にある。2000年の全米読書委員会(NRP)報告は、音読の反復練習(オーラル・リピテッド・リーディング)が正確さ、流暢さ、読解理解を改善することを示し、フルエンシー研究と指導を大きく前進させた。さらに、1分間音読による読書速度は、読解力を非常に高い精度で予測する指標であることも明らかにされた。ただし、速さのみを評価すると理解を伴わない読みを助長する危険もある。近年は、抑揚やフレーズのまとまりといったプロソディや、読書速度を適度に高める訓練が理解を促進する可能性にも注目が集まっている。フルエンシーは初期読解に限らず、幅広い学習者の読解力を支える重要な要素である。
第一言語(L1)におけるフルエンシ―研究の鍵
過去15年間にわたる第一言語(L1)の読解研究は、読解フルエンシーと読解理解の関係について多くの知見を示してきた。多くの研究に共通する結論は、読解フルエンシーが読解理解と強く関連し、その重要な予測因子となるという点である。読解フルエンシーは単に速く読む能力だけでなく、正確さや適切な抑揚(プロソディー)を含む総合的な読みの技能として捉えられている。研究では、文章音読フルエンシーが読解理解と非常に高い相関を示すことが報告されており、相関係数は0.80から0.88に達する場合もある。このことは、流暢に読む能力が読解力と密接に結びついていることを示している。
また、学年によって読解に影響する要因の重要性が変化することも明らかになっている。小学校段階では読解フルエンシーが最も強い予測因子となる一方で、学年が上がるにつれて語彙や推論、聴解などを含む言語理解の役割がより大きくなる。中学生や高校生の段階では、言語理解が読解理解を説明する主要な要因となるが、フルエンシーも依然として一定の影響を持ち続ける。さらに、いくつかの研究では、フルエンシーが言語理解を媒介して読解理解に影響を与える可能性も指摘されている。
加えて、読解フルエンシーは小学校低学年までの限られた技能ではなく、大学レベルに至るまで読解力を予測する重要な能力であると考えられている。これらの研究結果は、流暢に読む能力が読解理解の発達において継続的かつ重要な役割を果たすことを示している。したがって、読解指導においては、正確さや速さだけでなく、意味を意識した自然な読みを含むフルエンシーの育成が重要であるといえる。
第二言語における読解フルエンシーの視点
続いて、第二言語(L2)読者における読解フルエンシーと読解理解の関係について、いくつかの研究を通して整理されている。L2読者は一般に、母語話者と比べて語認識の自動化や文章読解のフルエンシー、プロソディーなどが十分に発達していないことが多い。その主な理由は、語彙や文法などの言語知識がまだ十分ではないためであると考えられている。
研究では、語認識フルエンシーや文章読解フルエンシーに加えて、音韻意識、語彙、統語知識、リスニング理解、メタ認知など、読解力に関係すると考えられる多くの要因が測定された。その結果、L2読解においては統語知識(文法知識)が特に重要な役割を果たすことが示され、言語知識の中でも文の構造を理解する力が読解理解に大きく関わっていることが明らかになった。また、フルエンシーと読解理解は別の能力であるものの、フルエンシーは読解力を予測する重要な要因であることが確認された。
特に多くの研究で共通して示されたのは、単語レベルのフルエンシーよりも文章レベルのフルエンシーの方が読解理解と強く関係しているという点である。実際に、回帰分析に文章読解フルエンシーを加えると、単語フルエンシーの効果は有意でなくなる場合もあり、文章をスムーズに読む力が読解理解に大きく影響していることが示された。
さらに、韓国の高校生を対象とした研究では、L2学習者の音読速度が1分間に約62語であり、これは母語話者の小学2年生程度の水準に相当することが報告された。この結果は、L2学習者には文章を音読する練習を通して読解フルエンシーを高める必要があることを示唆している。成人のEFL学習者を対象とした研究でも、複数のフルエンシー測定が読解力の一定の割合を説明しており、特に文章読解フルエンシーが重要な予測因子であることが確認された。これらの研究は、L2読解においてもフルエンシーが読解理解と密接に関係していることを示している。
反復読みに関する研究への示唆
ここでは、L2読解フルエンシーを高めるための指導法として、反復読み(repeated reading)と多読(extensive reading)の2つが取り上げられている。まず反復読みについては、過去20年の研究から、読解フルエンシーがL2読解理解に大きく貢献すること、そして同じ文章を繰り返し読む活動がフルエンシー向上に有効であることが確認されている。L1では約40年にわたり研究が蓄積されており、特にNational Reading Panel(2000)でも、若年学習者に対して効果的な指導法として位置づけられている。一方、L2における研究はまだ少ないものの、5〜7回程度の反復読みを長期間(数十週間)継続することで、読解速度やフルエンシーが有意に向上することが示されている。ただし、理解力の向上については一貫した結果が得られておらず、指導方法や評価の仕方を含めたさらなる検討が必要とされている。
これに対して多読は、より多くの研究によって検証されており、大量の読書を継続することで、読解速度だけでなく語彙や背景知識、読解理解の向上にも効果があることが繰り返し示されている。そのため多読は重要な研究領域として位置づけられ、本書でも独立した章で詳しく扱われている。全体として、L2読解指導においては、フルエンシーを高めるための実践として反復読みと多読の両方が重要であり、それぞれの特徴を踏まえた活用が求められる。
指導のための示唆
最終章では、第二言語(L2)における読解フルエンシーの指導とその実践方法について整理されている。まず、フルエンシーは読解理解に大きく関わる重要な要素であり、特にL2学習者にとっては語認識の自動化や正確さ、文章レベルでのスムーズな処理を発達させることが不可欠であるとされる。その一方で、フルエンシーはあくまで読解力を構成する一要素であり、語彙や理解指導、多読と組み合わせて指導する必要がある点も強調されている。
指導法としては、反復読み(repeated reading)と多読(extensive reading)が中心的に取り上げられる。反復読みは同じテキストを繰り返し読むことでフルエンシーを高める方法であり、L1研究では長年その効果が実証されてきた。L2でも、5〜7回の再読を長期間継続することで読解速度や流暢さが向上することが示されているが、理解力への効果については結果が一貫していない。一方、多読はより多くの研究によって支持されており、大量の読書を通して読解速度、語彙、背景知識、理解力の向上に寄与することが明らかになっている。
また、フルエンシー指導は一つの方法に依存するのではなく、一人読み、ペアでの再読、語認識練習、時間制限付きの速度練習などを組み合わせて行うことが重要とされる。さらに、再読活動は単なる繰り返しではなく、要約や情報統合など明確な目的を持たせることで、理解と語彙習得の両方を促進できると指摘されている。実際、目的を明確に示さない単なる再読は学習者にとって動機づけが低くなると述べられている。
加えて、支援付き読みやパフォーマンス・リーディング(発表(小劇)などのための音読練習)、音読を活用した多様な活動も提案されているが、L2では発音をはじめ、L1とは異なる負荷があり、音読への抵抗が見られる。しかしこれは有効性の問題ではなく、研究や理論の蓄積がまだ十分でないことに起因するとされ、今後はL2においてもより積極的にフルエンシー指導を取り入れる必要があると結論づけられている。さらに、フルエンシーの向上には長期的な取り組みが不可欠であり、短期間の練習では十分な効果は得られない。教師が学習者に目的を明確に伝え、継続的に活動を行うことで、学習者はフルエンシー活動を楽しみながら読解力を高めていくことが期待されると結論づけられている。
第17章を読んで
第17章で繰り返し述べられていたのは次の3点だった。1第一言語教育では、フルエンシーが読解力の向上に役立つことが研究で明らかになっているのに対し、第二言語教育ではまだ研究成果が少ない。2フルエンシー指導は、多読指導と組み合わせて行うことにより、効果が強化される。3フルエンシー指導で繰り返し読みを行う際に、目的を伴うタスクと一緒に行うことが必要だ。
教室で音読練習の際、問題になるのは、文章が長くなるにつれ最初は大きかったコーラスの声が次第に弱くなり、だんだん学習者が疲れてくることだ。それを防ぐためにランダムに指名すると、とっさに指名された学習者がうっかりしていてどこを読んでいるのかわからず、そこでタイムラグが発生し学習者の集中力が一気に低下してしまうことがある。本章を読み、学べたのはこれを解決するために再読に目的を持たせるということだった。もし文章が長ければ、あるタスクの為に再読することとし、そこに該当する部分の段落だけを集中して繰り返し読みするといった方法が考えられる。
もちろん、これまでもこれに似たような音読練習を実施してきた。ただその時はフルエンシーの向上をL2の読解力の向上に結び付けるという意識が自分にあまりなかったように感じる。学習者が音読に対するモチベーションを保つことができるように、タスクをはじめとした実践法にどうつなげていけばいいだろうか。次にやってみたい課題が見えてきたように思う。

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