自律学習をサポートするための日本語教師の学び

学習意欲と深い関係がある「自己効力感」

前回の「指し手・コマ理論」に続き、今回は、第6章P153~P156で述べられている「自己効力感」についてまとめる。

自己効力感(self-efficacy)は、バンデューラによると、ある人が与えられたタスクの実行に成功できるという、自分自身に対する信念であるということだ。バンデューラによれば、以下の4つの情報源から形成されるそうだ。

1達成経験(最も大切)
 実際の成功体験が、最も強力に自己効力感を高める。ある種の課題の成功体験が、苦手な他のタ  スクや分野への挑戦にも波及するそうだ。注意点として、「運」や「課題の簡単さ」に成功の理由が帰属されると、効果が小さくなるとのことだ。逆に、難しい課題で失敗しても、努力を続けることによって自己効力感は損なわれない。

2代理体験
 他者の成功を観察して、自分にもできると結論づけることだそうだ。その効果は、観察者がモデ ルと自分を同一視、つまり自分に似ているかに強く依存するということだ。

3言語的説得
 他者からの励ましや、自分自身へのポジティブな自己説得であると述べられている。ただし、実際の成功体験が伴わない限り、長期的な効果は限定的であると指摘されている。

4生理的・情緒的状態
 不安や緊張などの感情的喚起の高さは、自己効力感を低下させるそうだ。失敗への恐怖が高まると、認知処理が阻害されてパフォーマンスが低下すると述べられている。このような状態を「パフォーマンス志向」状態という。理想は、課題そのものに集中できる「課題志向」の状態だそうだ。
コーチングにあたっては、否定的な感情を鎮めて、成功の原因を自身のスキルに帰属させるフィードバックが有効であると述べられている。

考察 ~達成経験の積み重ねを意識して~

この章では、自己効力感を育成するために、最も大切なのは達成経験であると述べられていた。また、それは、課題の難易度や運により、学習者の自己効力感につながるかどうかに影響するということだった。

これらを踏まえて、現在担当している留学生のクラスで、ある課題とそれに基づいたテストを継続している。そのクラスの学習者のほぼ全員は、来月2回目のN3を受験する人たちだ。2024年4月に来日、入学して以来、自分の日本語の能力に自信が持てない、何度やっても語彙や漢字が覚えられないという人が多い。クラスの中で抜きんでている人がおらず、国籍もほぼ同じ人たちで構成されているクラスだ。

手順として、毎日、400字程度のスクリプト(私が作成したN3レベルの読解文や聴解スクリプト)を全員で音読する。そのスクリプトの下に、ディクテーションリストが書いてあり、音読の後に毎日、3問ずつディクテーションテストをする。ディクテーションの文は、音読するスクリプトを1文ずつ区切ったものだ。ディクテーションは、すべてひらがなで書きとってもらい、(漢字で書いた場合は漢字の上に振り仮名をふる)一字一句正確に聞き取って書けているかどうか、採点する。3つ以下の間違いなら、合格、不合格の場合は授業後に残って間違えた文を清書し、提出してから帰る。

なぜこの課題なのか、このやり方なのかを説明すると長くなるので、結論から言うと、始めた時は不合格の人が結構いたが、次第に合格者が増えてきた。学習者はスクリプトもディクテーションリストも持っているので、テストとはいっても、答えがはじめからわかっている。ただ事前にそれを見て練習するかどうかは、学習者次第だ。そして、ディクテーションの後、自己採点させるのではなく、回収して教師がチェックし、合格、不合格と記入する。翌日、テストを返却する際に、一人一人に「~さん、合格、~さん、合格」と元気に言いながら、返却していく。こんなちっぽけなテストでも笑顔で「合格!」と言われて手渡されたら悪い気はしないと思う。逆にクラスメートがどんどん合格しているのに、自分だけ不合格はマズい、というムードも醸し出されている。ちなみに不合格を手渡すときは、小さめの声で、そっと渡すようにしている。

このディクテーションテストを継続して、学習者はほんの少しかもしれないが、自分はできるという自己効力感を感じてくれただろうか。3月の最後の授業で、アンケートをしてみたい。私が教室で学習者を見ている限りでは、彼らに少しずつでも自己効力感と合わせてやる気が育っているのを感じている。クラスを一緒に担当している先生方からも、彼らが以前より、他の課題に対する取り組みがよくなってきた、クラスの雰囲気も変わってきたと聞いて、このまま続けて取り組んでいきたいと思っている。

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