学習性無力感
P163~P167では、何かを学ぶときのその人が持つ認知の癖や信念などが、学びの過程や結果にどのように影響があるのかについて、書かれている。
学習性無力感とは
学習性無力感とは、自分の行動(努力)と結果(成功・失敗)の間には、何の関係もないと、人が認知してしまうことで生じる、深い無力感と無気力の様態であると述べられている。これは自信や自己効力感と正反対の心理状態とされる。
ではなぜ、このような状態が生じるのだろうか。要因として、努力しても繰り返し失敗をした経験の積み重ねがあるということだ。その過去の経験が、新たな挑戦での失敗の裏付けとなり強化されて、負のスパイラルに陥っていくらしい。
ではこのスパイラルから抜け出すためにはどのような支援ができるのかについて、環境をコントロールする方法が3点が挙げられる。
1.本人が確実にクリアできる、ほんの少しだけ難しい「小さな挑戦」から始める。
2.成功したら、その成功を本人の「努力」と「能力」のおかげであると明確にほめて認める。
3.それをくり返しつつ、少しずつ課題の難易度を上げて、「努力→成功」の関係を体感させる。
次に、学習者の認知を再構築する方法が挙げられる。これは再帰属療法と呼ばれている。
1.本人に、自分の行動(努力)と、良い結果(成功)の間には確かな因果関係があることを、成功体験を通して再学習させる。
2.失敗したとしても、それを能力がないと考えないように導く。「やり方が違っただけ」「もっと努力が必要だっただけ」など、コントロール可能な要因(努力・方略)に帰属させる考え方に導く。
このように、いくらがんばってもどうせ無理・・・のような思考の癖が、負のスパイラルを引き起こしていても、環境をコントロールすることと、結果に対する認知の仕方の再学習することによってサポートできるということが述べられている。
学習性楽観主義、能力についての信念、ゴール指向性
セリグマンは、学習性無力感とうつに関する臨床研究から、悲観主義者は諦めやすくうつになりやすい一方、楽観主義者はより成功しやすく健康で幸せであることを示した。人は認知再構築のプロセスを通じて楽観主義者になることを学べる。帰属演習とその他の設計された活動によって、より生産的な考え方と行動法を開発できる。学習環境にこれらの方法を組み合わせることは子供にとって有益であり、特に教師がその行動をモデルとして示すときに効果的だそうだ。
能力に対する信念は、成功への期待、帰属、成績に影響を与える。能力の本質概念は「能力は固定されて変化しない」という信念であり、実際にできるよりも低い学習と成果に人を閉じ込める。これに対し、能力の増加概念は「努力によって能力は発達する」という信念であり、自己効力感が高い人はこの傾向を持つ。ドゥエックの研究では、中学生に脳の神経回路が成長する様子を教え、数学学習時に自分の脳の成長をイメージするよう指示した結果、能力は努力と成功によって発達するという信念と学業成績の両方で肯定的な変化が見られた。
ゴール指向性は、「ゴール達成行動の結果」にフォーカスするか「ゴール達成に向けての活動」にフォーカスするかの違いを指す。ニコルズは、課題志向の人は課題達成方法にフォーカスする一方、自我志向の人は結果や外部評価を気にすることを見出した。ドゥエックは、学習ゴールに動機づけられている人は、挑戦的課題を探し、努力による能力向上を信じる一方、パフォーマンス志向の人は有能さを見せることや社会的比較に関心を持つと区別した。
高い不安感は自我志向やパフォーマンス志向に関係し、否定的結果への恐怖が人を麻痺させる。しかし人は両方の思考性を異なる程度で持っており、中程度のパフォーマンス志向はむしろ良い学びにつながる可能性もある。
以上のような研究成果を踏まえ、学習環境デザインの際は、背景知識が乏しく自信がない段階では課題志向を最大化し、学習者の達成レベルが上がるにつれて徐々にパフォーマンス条件を厳しくするといい。この方略は試験対策や楽器演奏などの実技スキル指導にも用いられる。パフォーマンス問題の診断にはこれらの概念が有効であり、学習者の多くが自我志向や過剰な不安感によって学習できない場合、課題に焦点を当てる鈍感化活動が不安感を和らげるということだ。
最後に、ARCSモデルにおける自信を構築する作戦を構築する際は、自信不足の人には自信をつけさせ、既に自信がある人の自信は損なわず、自信過剰な人には「知る必要がある」という気持ちを持たせることが肝要であるそうだ。
考察
今回読んだところで、一番勉強になったのは「鈍感化活動」と言う部分だった。鈍感というのが、ポジティブな効果をもたらすというところに納得した。クラスにはいろいろな背景を持つ学習者がいて、ここで述べられている課題志向とパフォーマンス志向の配分やバランスをどう取っていくのかを細かくデザインしていけたら理想的なのかもしれない。
一人一人に合わせて課題を変えることは本質的に難しい。そこでクラスの授業の場合は課題の取り組み方のステップを示しながら、自律的な学習ができるようにし、グループを編成してメンバー間で学びあいを挟み、最終ゴールでは特に自信不足の学習者も含め、課題達成は成功できたと思えるような流れがいいのかもしれない。
課題の質や難易度によっても工夫が求められそうだ。しばらくこの本の勉強ができていなかったが、この章を読んで、『学習意欲をデザインする』学びへのやる気が再燃した。

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